対リビア交渉に見え隠れするフランスの思惑(その1)

ブルガリア人医師・看護師解放の舞台に立った仏大統領夫人の謎

柴田 真紀子(2007-08-13 05:00)
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 リビア国内の子どもたちをHIVに感染させたとして、リビアで有罪判決を受けていたパレスチナ人医師(ブルガリアに帰化)1名とブルガリア人看護師5名の計6名が、7月24日、8年間の拘束の末、フランス大統領専用機で帰国した。

解放を喜ぶブルガリア人看護師たち。後ろにはセシリア・サルコジ大統領夫人(ロイター)

 この6人はリビアの北東部ベンガジの病院で働いていた。その折、そこで治療を受けた子どもたちがHIVに感染したことが発覚し、1999年2月、故意にHIV/エイズを広めたとして逮捕された。彼らは容疑を認めたため、死刑を求刑された。

 しかしその後、この証言は拷問によって自白させられたものであると主張、半数が証言を撤回した。この件を調査したフランス人とイタリア人の専門家は、病院内の衛生環境の悪さが感染の原因であり、ブルガリア人看護師らの到着以前からHIV感染があったことを指摘した。

 欧州連合側はまた、感染した子どもたちとその家族を援助する国際基金を設立するなど、金銭面による解決を求めて努力した。 しかし、今年の7月11日、リビアの最高裁は6人の死刑判決を確定。最終決定はリビアの司法機関高等評議会に託され、同月17日、欧州連合が見守る中、終身刑への軽減が発表された。

 だが、そのわずか1週間後の24日、6人は本国で受刑することを許可され、身柄解放交渉のためにリビアを訪問していたフランス大統領夫人セシリア・サルコジと共に、フランス公用機でブルガリアへ戻った。

 そして、ソフィアに到着すると、ブルガリア大統領ゲオルギ・パルバノフから直ちに恩赦を受けた。

  ◇ ◇ ◇

 この喜ばしい解放劇の中、最後に目立ったフランスの晴れ晴れしい役割に謎がまといつく。フランス国内でも、自国大統領の活躍を素直に喜べない雰囲気が漂っている。

 まず、セシリア・サルコジの役割が不明瞭(ふめいりょう)である。

 彼女は、夫が今年5月の大統領選に出馬した際、ファースト・レディになった場合に自分の自由が制限されることを懸念し、大統領官邸であるエリゼ宮に住むことを喜ばしく思っていなかった。さらに、投票者名簿を確認した週刊紙『ジュルナル・ドュ・ディマンシュ』によると、セシリア夫人は大統領決選投票の日、投票所に行っていない。つまり、夫に投票しなかったのである。

 また、6月にドイツで開かれたG8サミットでは、メルケル首相の夫が主催したファースト・レディの昼食会に参加せず、フランスへ戻ってしまった。ニコラ・サルコジが大統領の座についてから2カ月あまり、世間は彼女がどんなファースト・レディになろうとしているのか疑問視していた。

 そこへ、ブルガリア人看護師らの死刑確定直後の7月12日、突然単独でリビア入りを果たし、彼らと面会、HIV感染被害家族を訪問するなど、外交的な態度を示して人々を驚かせた。この訪問は非公式なもので、リビアの子どもたちを援助しようというフランスの意向を示すために「1人の母親として」大統領から提案されたものと発表されている。

 その後、リビアが終身刑への軽減を発表すると、セシリア夫人はクロード・ゲアン大統領府事務局長を伴って再びリビアへ。その足で、欧州委員会対外関係担当のベニタ・フェレロ=ワルトナーと共に、ブルガリア人医師と看護師をソフィアへ送り届けることとなり、注目を浴びた。

 ところで、この最後の交渉段階において、セシリア夫人が活躍したようにみえるが、彼女の訪問は「非公式」だったはずである。交渉の役割を正式に委任されていないにも関わらず、フランス大統領夫人としてリビアの最高指導者カダフィ大佐と会見し、結果的には国際外交に貢献したことになる。

フランスのサルコジ大統領(左)と、カダフィー大佐(右)。トリポリにて(ロイター)

 その反面、この間、フランスの外務大臣ベルナール・クシュネールは表立っての交渉に関与していない。本来なら外務大臣が果たすべき任務を、セシリア夫人が代わりに遂行したかのようである。

 フランスのファースト・レディが夫の外交補佐までするのは例外的であるが、これも革新を目指す大統領による新しい外交のやり方なのだろうか。

 または、セシリア夫人がやっと見つけた新しいファースト・レディの姿なのだろうか。しかしそれならば、大統領夫人としての公式訪問と発表しても良かったのではないだろうか。

 また、セシリア夫人のあいまいな役割による活躍は、欧州連合をいら立たせた。欧州連合は、ブルガリア人たちの解放に向け、3年もかけて地道にリビアと交渉してきた。その積み重ねの最後に、非公式訪問したセシリア夫人が手柄をさらった格好となったのである。

  ◇ ◇ ◇

 看護師らがブルガリアへ無事に到着したことが確認されると、サルコジ大統領は早速記者会見を開いた。そしてまず、この解決は欧州連合の功績であるとし、フェレロ=ワルトナーならびにジョゼ・マヌエル・バローゾ欧州委員会委員長の努力をたたえ、手柄を横取りしてフランスのものしようというわけではないことを示した。

 また、妻のセシリア夫人に敬意を表し、ねぎらいの言葉を述べた。その後の質疑応答で、サルコジ大統領は、夫人が国際問題に関与したことについて質問されると、「新しいかたちの外交ではない」と述べた。「ファースト・レディがどう規定されるかを理論づける必要はない」、「女性の問題であり、人道的問題だった。セシリアなら有益な行動ができると考えた」と説明。

 大統領は「大事なのは結果だ。解決すべき問題があり、われわれはそれを解決した」と会見中何度も強調し、良い結果へと導いたその手段は今ではもう問題ではないとみなした。つまり、上記のセシリア夫人の役割の不明瞭さに関する疑問は葬られたことになる。今後何らかの機会がない限り、これらの疑問について議論されることはもうないだろう。

(続く)



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